コズミックラジオ
コズミックラジオ
非常持ち出し袋の中を整理していた。古くなった非常食やペットボトルの水を入れ替えたりするためである。
乾パン、ドロップあたりは至極一般的で面白みもない非常食であるが、なぜかスパム缶が入っていた。いや、入れたのは自分なので『なぜか』もクソもないのだが。
…ああそうだ、思い出してきた。
とりあえず消費期限が長くてカロリーありそうだ、という理由で食べたこともないスパムを入れたのだった。しかし災害時の熱源消失環境も想定せねばらない環境でなぜにスパム? スパムって生で食えるのか?
今ググってみたのだが、一応食べられないことはない、らしい。ただ、脂がものっそ凄いのでよっぽどのことが無い限り焼いて食べるものらしい。
賞味期限はまだ先だが、火が無くても抵抗なく食えそうな別の缶詰系に入れ替えようと思った。
高校の頃に使っていたスポーツバッグを転用してあれこれ突っ込んであるので、整頓も何もなく雑然と防災グッズが詰め込まれている。奥の方に、片手で握れるほどの大きさの丸っこいフォルムの白いものがあった。
手に取る。
「ああ、こんなものもあったのか」
手回し充電式ラジオだ。
LEDライト、サイレン音発生、携帯充電機能がついている。買ってから一度も使っていないので、機能を確認してることにした。
30秒ほどグルグルとハンドルを回す。結構疲れる。
ライト点灯、おお、点いた点いた。
サイレン音はと……すぐスイッチを切った。夜中に鳴らしていい音じゃない。崩れた建物に閉じ込められた時とかに使うものだ。
ラジオも、まぁ普通に聞こえる。家の中でラジオを聞くなど高校時代である。
知らないJ-pop、ダラダラしたしゃべくり、ボツボツと語られる時事ネタ、クラシック。
チューニングダイヤルをグリグリ回し、止まない雨のような砂嵐音の狭間にふっと現れる音声を拾っていく。
「ラジオを聞く」という行為自体にある種の懐かしさを感じてしばらく弄って聞き入ってみたが、すぐに飽きてしまった。たった充電ハンドルを30秒回しただけなのだが、結構電池の持ちが良いようだ。しかし飽きた。もう十分だ。
最後にもう一度、ダイヤルをゆっくりと回してみた。
サリサリを壁をするような砂音は、時に高く、時に低くうねる。
どこか弱い電波の周波数でもかすめたのか、一瞬うわんと音が高く歪み、やがて消えた。
ダイヤルを少しずつ、少しずつ、ゆっくりと回していく。
ぷつぷつと呟きのような雑音が次第に小さくなる。そろそろ充填した電池も切れてきたのだろうか。
ダイヤルを回す。
音は奈落に吸いこまれて消えた。


ステッパー40分

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